オスロトリプルはおすろしい<その3:ハーフ&10km>
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ハーフマラソン
ハーフの最終ウェーブのスタートは14:00だったが、最終種目のことも考え、私は13:55にスタートすることとした。
会場ではクリスティーナ・アギレラの"I just wanna feel this moment"の歌声が響く。
だが私が感じているのは疲労感だけだ。フルのゴール直後に比べたらかなり回復した感覚はあったが、正直どこまで走れるのか全く想像がつかなかった。
スタート前にはお決まりのダンス。
周りのランナーたちはノリノリでこれに合わせて踊っている。だが私は同じものを朝見ているし、そもそもそんなダンスをする体力すら惜しい。
スタート直後、やはり足が重い。フルと同じ5分/kmで行ければ最高だと思っていたが、それは望むべくもないことがわかった。最初の1kmは5分20秒。このペースですら最後まで行ける確信はない。なによりこれからあと20km走るということを考えるだけで気が滅入った。
最初の登りで、「私はここをついさっき2周してるんです。ここで登ったあと、線路沿いを走って、公園に向けてまた登ります」とでも叫びたい衝動に駆られた。これが経験者がブログで語っていたトリプルの孤独なのか。
まさに前途多難なレースであったが、最初の登りを脚を止めずに登り切ると、下りは快調に走れた。その後の平坦でも予想以上に走れる。どこにこんな力が残っていたのかと、何度も自分で自分に驚いた。
ハーフの参加者は恐らく1万人近くいる。遅いランナーを次々とかわすうちに、気持ちも少し乗ってきた。リズムも出てきた。スタート直後にこの好走は想像できなかった。
最後の登りも、ここが最後の登りだ(10kmコースはほぼ平坦である)と言い聞かせ、なんとか力を振り絞れた。最後はあとちょっと頑張ればトリプルテントへ戻って休める。それだけを思って走った。
フルに続きラストスパートをするランナーに抜かされながらのゴール。こっちはスパートをする体力はとてもない。タイムは1時間53分。上出来である。
ゴール後2つ目のメダルを首にかけてもらい、三度トリプルテントへ。ようやく孤独な戦いの場から離れられた。他のランナーを見て、安堵感を感じた。みんな孤独な戦いをしていたんだ。あと10kmだねと、励まし合う。10kmの最終ウェーブまでの時間はおよそ45分。もう完走は見えた。
テントではフルの後と同じようにゼッケンを付け替えて補給。フルの後の補給ではあまり意識していなかったのだが、この日は晴れていたため、相当の水分が失われていたはずである。ようやくそのことに気づき、とにかく水分を取りまくった。ここまできて、脱水症状でリタイアはごめんだ。
10 for Grete
10 for Greteの名称の10kmレースも最終ウェーブから5分前の組でスタートすることにした。スタート前にはおなじみの踊り。もちろん周りはノリノリ。私は一人疲れた顔でストレッチ。
この日3度目のスタート。脚はやはり重かった。だが、もう登りがないと思うだけで気持ちは楽だった。
さすがに10kmの後ろのウェーブはペースが遅い。みんな6分以上のペースだ。「私はトリプルのランナーなんです。道を開けてください」とでも叫びたいところだったが、やはり叫ぶ元気はない。
あのアップダウンのコースを63kmも走ったんだ。あと10kmじゃないか。疲れてはいたが、精神的には前向きな良い状態だった。
ふとトリプルテントで他のランナーが発した言葉を思い出した。「景色を楽しめなかったって?じゃあ最後の10kmくらい楽しまないとね。」そうだ、私は翌朝すぐにオスロを発つのだ。オスロの街を走りながら目に焼き付けないと。
そう考えるととても良いコースなのだ。海沿いのヨットハーバーを抜け、レストラン街を抜け、大きな客船の前を通り、最後は石畳の歴史を感じる街並みだ。応援も熱心だ。
最後のゴールは嬉しさがこみ上げた。サブスリーを達成したときのように、達成感に溢れた笑顔でゴールできた。10kmのタイムは51分、トリプルのトータルは6時間13分であった。
ゴール後、女の子がトリプルの特別なメダルを首にかけてくれた。彼女は大勢のフィニッシャーの中から、僅かなトリプルランナーが帰ってくるのを待っていてくれたのだ。その子が天使に見えた。
10kmのメダルももらい、4度目のトリプルテントへ。みんな健闘を称え合っていた。誰彼構わず握手した。トータルタイムの差はあっても、10kmのスタート時間はそれほど違っていなかったため、みんな近い時間でゴールしてきたというのも良かった。次々と達成感に満ち溢れた笑顔が戻ってきては握手。ああ、ここに来て、このチャレンジをして良かったと、心から思えた。
終わりに
まずこの記事を見て、オスロトリプルに興味を持った方へのアドバイスを。他にはない特別な体験ができるのは間違いないので、日程や金銭面がクリアできるのであれば強くお勧めしたい。達成感ももちろん特別だが、自分の回復力を測る良い機会になると思う。
次に私と同じように迂闊にもポチってしまった方へ。正直どう走るのが正解なのかはペースと回復力に左右されるので、全くアドバイスができない。上位を見ていると、ある程度フルで力を出してハーフは落ちる傾向が見える。ただ、中位には3種目でビルドアップしてる記録も見つかる。これもオスロトリプルの難しさであり、楽しさであると思う。
トリプルの仲間たちには感謝を改めて伝えたい。ノルウェー語がわからない私にみんな本当に優しくしてくれた。19,000人の大会で孤独な戦いをして、彼らと達成感をともに味わえたことは、私の人生の大きな財産になった。
最後に、ノルウェーに来るきっかけを作ってくれた大学時代の友人家族に感謝したい。滞在中の様々な面倒を見てくれただけでなく、わざわざ泊りがけでオスロまで応援に来てくれた。おかげで特別な体験ができた。
Takk skal du ha!